絵文字の歴史

携帯電話の小さなアイコンから世界標準へ、絵文字がたどった道のりを紹介します

歴史 Unicode

絵文字のルーツ

「絵文字を発明したのはNTTドコモ」という通説が広まっていますが、絵文字的なシンボルの歴史はそれより前にさかのぼります。

1988年10月、Sharpは電子手帳「PA-8500」を発売しました。このデバイスには102種類の絵文字的シンボルが搭載されており、テキストと同じ行にインラインで表示できるデザインでした。2024年のEmojipediaの調査によって、これが現在確認されている最古の絵文字セットとされています。

携帯電話で絵文字が登場したのは1997年11月です。J-Phone(現SoftBank)の端末「SkyWalker DP-211SW」に90種類の絵文字が搭載されました。12x12ピクセルのモノクロで、数字、スポーツ、天気、月の満ち欠けなどが描かれていました。栗田穣崇氏自身も2019年のツイートでJ-Phoneが携帯電話での先駆者であったと認めています。ただし、この端末の売れ行きは芳しくなく、他のJ-Phone端末にはこの絵文字セットが引き継がれなかったため、広く普及するには至りませんでした。

i-modeと176個の原点

1999年、NTTドコモはモバイルインターネットサービス「i-mode」を開始しました。このサービス向けに、栗田穣崇氏を中心とする約12人のi-mode開発チームが176個の絵文字をデザインしました。12x12ピクセルのグリッドに収められた176個は、全体でわずか約3キロバイトのデータ量でした。制作期間は約4〜6週間と伝えられています。

デザインのインスピレーションは大きく2つの方向からもたらされました。1つは日本の漫画で使われる「漫符」と呼ばれる表現技法です。汗のしずく、怒りマーク、ハートなど、感情や状態を記号的に伝える手法が感情系の絵文字に反映されました。もう1つは、天気予報の記号や道路標識といった日常のピクトグラムです。天気、ニュース、位置情報を伝えるための情報系絵文字は、こうした視覚記号から着想を得ています。当時人気だったポケットベル(Pocket Bell)のハートマーク機能も、絵文字が若者のコミュニケーションに果たす役割を示す先行例として意識されていました。

i-modeの絵文字は10代のユーザーを中心に急速に受け入れられました。テキストだけでは伝わりにくい感情のニュアンスを補うツールとして、携帯メール文化に欠かせない存在になっていきました。2000年代前半には、日本の携帯電話ユーザーの間で絵文字は日常的なコミュニケーション手段として定着しました。

2016年10月、ニューヨーク近代美術館(MoMA)はオリジナルの176個の絵文字セットを永久収蔵品に選定しました。同年12月から翌2017年3月にかけて「Inbox: The Original Emoji」と題した展示が行われました。

キャリア間の絵文字戦争

2000年代に入ると、NTTドコモの絵文字の成功を受けて、KDDI(au)とSoftBankもそれぞれ独自の絵文字セットを開発しました。各社は数百種類の絵文字を用意し、デザインや種類で差別化を図りました。しかし、3社の絵文字セットには互換性がありませんでした。各社がShift-JISやISO-2022-JPの独自拡張領域に絵文字を割り当てていたため、同じコードが異なる絵文字を指すという根本的な問題を抱えていました。

キャリアをまたいでメールを送ると、絵文字が文字化けしたり、意図しない別の絵文字に置き換わったりする問題が日常的に起きていました。たとえば、あるキャリアで送ったハートの絵文字が、別のキャリアでは全く関係のないアイコンとして表示されることがありました。キャリア間で変換テーブルが用意されることもありましたが、対応が不完全なケースも多く、利用者にとっては混乱の種でした。

この互換性の問題は、日本のフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)文化の特徴的な課題でした。各キャリアが独自のサービスとコンテンツで囲い込みを行っていた時代の産物です。この混乱が、後の絵文字Unicode標準化を後押しする一因となりました。ただし、Unicode標準化後もベンダーごとのデザイン差は残ることになります。

スマートフォンが開いた扉

2008年、絵文字はモバイルの枠を超え始めました。

2008年10月、GoogleはGmailに79種類のアニメーション絵文字を追加しました。社内では「goomoji」と呼ばれたこの絵文字は、日本の3大キャリア宛のモバイルメールに限定されたものでしたが、Webメールサービスが絵文字をサポートした初期の例として注目されます。

翌月の2008年11月、AppleはiOS 2.2で絵文字キーボードを初めて搭載しました。SoftBankの絵文字セットを基にした471種類の絵文字グリフが含まれていました。ただし、当初は日本のユーザーのみが利用可能で、国外のユーザーはサードパーティアプリを使ってキーボードをロック解除する必要がありました。この制限はiOS 5まで約3年間続くことになります。

iPhoneの登場はガラケーからスマートフォンへの移行を加速させました。それに伴い、キャリアごとに分断されていた絵文字を1つの規格にまとめる必要性が、技術者の間で共有されるようになっていきました。

Unicodeへの統合

2009年1月、Appleの木田泰夫氏とPeter Edberg氏は、GoogleのMarkus Scherer氏やMark Davis氏らと共同で、Unicode Consortiumに絵文字のエンコーディング提案を提出しました。日本の3大キャリアがそれぞれ独自のShift-JISやISO-2022-JPで扱っていた絵文字を、Unicodeとして統一的に表現するための提案でした。

2010年10月、Unicode 6.0がリリースされ、絵文字が公式に標準化されました。608の新しい絵文字コードポイントが追加され、Unicode 5.2に既に収録されていた114文字と合わせて、合計722の絵文字が標準セットとなりました。3社の独自セットが1つのコード体系に統合されたことで、絵文字の互換性の基盤が初めて整いました。

ただし、Unicodeが定義するのはコードポイントと名前であり、見た目のデザインは各ベンダーに委ねられています。そのため、同じ絵文字でもApple、Google、Samsung、Microsoftで見た目が異なるという状況は標準化後も続いています。技術的なバージョンの詳細については「Unicodeバージョンと絵文字の進化」トピックで取り上げています。

世界を席巻した絵文字

2011年、AppleはiOS 5で絵文字キーボードをグローバルに搭載しました。設定アプリから誰でも有効化でき、サードパーティアプリのインストールは不要になりました。iOS 2.2の日本限定リリースから約3年を経て、ようやく世界中のiPhoneユーザーが標準機能として絵文字を使えるようになりました。これをきっかけに、英語圏で絵文字の利用が爆発的に広がりました。

絵文字はテキストメッセージを補助するツールから、ポップカルチャーの一部へと変貌していきました。映画やグッズにも進出し、英語の「emoji」は日本語からの借用語として辞書に載るようになりました。「emoji」という英単語自体の使用頻度も年々増加し、2010年代半ばには前年比で3倍以上に伸びたとされています。

その象徴的な出来事が、2015年11月のOxford Dictionariesによる「今年の単語」の発表でした。選ばれたのは😂(Face with Tears of Joy)で、ピクトグラフが選出されたのは2004年の制度開始以来初めてのことでした。SwiftKeyとの共同調査によると、2015年時点でこの絵文字はイギリスで全絵文字使用量の20%(前年は4%)を、アメリカで17%(前年は9%)を占めていました。

毎年7月17日は「World Emoji Day(世界絵文字デー)」として各地でイベントが行われています。この日付は、AppleがMacworld Expo 2002で発表したiCalアプリのアイコンに7月17日の日付が表示されていたことに由来します。カレンダー絵文字📅にもこの日付が使われ続けており、2014年にEmojipedia創設者のJeremy Burge氏がこの日を「World Emoji Day」として制定しました。

多様性の時代

2015年6月、Unicode 8.0で肌色修飾子が導入されました。1975年にアメリカの皮膚科医Thomas B. Fitzpatrick氏が開発したFitzpatrick Scaleに基づく5段階の肌色が定義され、デフォルトの黄色と合わせて6種類の表現が可能になりました。初期の絵文字セットにおける人種的多様性の欠如に対する批判に応えた変更でした。

Zero Width Joiner(ZWJ)シーケンスも絵文字の表現力を広げました。ZWJは目に見えない接続文字で、複数の絵文字を1つの絵文字として結合する仕組みです。これにより、家族構成、職業、ジェンダーのさまざまな組み合わせを表現できるようになりました。たとえば「女性」+ZWJ+「ノートパソコン」で「女性のテクノロジスト」👩‍💻を表現するといった形です。同性カップルや多様な家族構成の絵文字も、このZWJの仕組みによって実現されています。

ジェンダーニュートラルな絵文字も追加されました。従来は男女いずれかのデザインしかなかった職業や活動の絵文字に、性別を特定しない選択肢が加わりました。消防士、裁判官、科学者など、従来は絵文字になかった職業も加わりました。誰が使っても自分に近い見た目の絵文字を選べるようにする、という方向に絵文字の進化は向かっています。

これからの絵文字

現在、Unicode標準には3,000以上の絵文字が登録されています。毎年、Unicode Consortiumには世界中から新しい絵文字の提案が寄せられ、選定基準に基づく審査を経て標準に追加されます。提案は誰でも行うことができ、その絵文字が広く使われる見込みがあるか、既存の絵文字では表現できないものか、といった観点で評価されます。たとえばクラゲの絵文字🪼は、長年にわたる提案と議論を経て2022年のUnicode 15.0でようやく追加されました。

1988年のSharp PA-8500に搭載された102個のシンボルから、1999年のi-modeの176個を経て、世界中で3,000以上が使われる現在まで。デバイスもプラットフォームも変わりましたが、テキストだけでは伝えきれない何かを小さな絵で補おうとする試みは続いています。

12x12ピクセルのグリッドから始まった絵文字は、40年近くかけて世界中の画面に届くようになりました。

公開日: 2026-02-10 / 更新日: 2026-02-14